【札幌軟石】うちの敷石は、黄金湯(小金湯温泉)の土台だった|名もなき石工の手仕事を庭に敷く

2007年の黄金湯(屋根の看板)と、いまの我が家の札幌軟石の敷石 アート・DIY
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我が家の玄関へ続くアプローチには、札幌軟石が敷いてあります。

大きな平板、細長い縁石、そしてピンコロの石畳。特別なものには見えないと思います。実際、毎日その上を歩いていますし、雪も掃きます。

でも、この縁石には来歴があります。

もとは、1883年(明治16年)に始まった湯治場の、土台を支えていた石です。

玄関へ続くアプローチ。何気ない敷石に見えると思います

この模様は、機械では出せない

まず見ていただきたいのが、縁石の表面です。

細かいブツブツが、びっしり並んでいます。均一なようでいて、少しずつ不揃い。工場で型に流したものではありません。

縁石の表面。この細かいブツブツが、石工の手仕事の跡です

これは、石工が手で叩いた跡です。

私が彫ったものではありません。この石が切り出され、建物の土台として据えられたときから、すでにこの模様でした。

叩いた人の名前は、どこにも残っていません。今はもういない、名もなき職人の得意技だったのだろうと思います。それが百年以上経って、まだこうしてはっきり残っている。

その石は、小金湯温泉の旅館を支えていた

札幌から定山渓へ向かう途中に、小金湯温泉という小さな温泉地があります。

その歴史は古く、1883年(明治16年)、熊本からの入植者が「桂の木の下から湧き出している湯」を見つけたのが始まりだと伝えられています。

面白いのは名前です。大正期の記録には「黄金湯」と書かれていて、のちに「小金湯」へと字が変わりました。硫黄が黄金色に光って見えたから、という説があります。

なぜ字が変わったのかは、公式の沿革にも書かれていません。

2007年の黄金湯。「2008年1月 装い新たに誕生します」の貼り紙が出ていました

建て替えを聞きつけて、10回以上通った

正直に白状します。私は、札幌軟石の古材に目がありません。

当時、隣にある「まつの湯」によく通っていました。その行き帰りに、黄金湯の建物が目に入る。基礎に積まれた軟石を見て、「これは!」と一目惚れしたのです。

取り壊し前、基礎に積まれていた軟石。これに一目惚れしました

それからは、行くたびに気になって仕方がありません。

建て替えるのかな。壊すのかな。あの石はどうなるんだろう。

そんなことを考えながら、10回以上は通ったと思います。温泉に入りに行っているのか、石を見に行っているのか、自分でもよく分からなくなっていました。

当時、うちの子はまだ抱っこするくらい小さくて、家族で通っていました。桂の木の前で写真を撮り、温泉に入り、その行き帰りに黄金湯の基礎を眺める。

あの石を見ていた時間には、そういう家族の時間も混ざっています。

瓦礫の上に、転がっていた

そして、その日は来ました。

解体が始まり、あの石が地面に転がっていました。砂利と瓦礫の上に、無造作に。

解体後。瓦礫と砂利の上に、無造作に転がっていました

ビシャンの模様は、そのままです。百年以上、建物を支えてきた石が、このままでは処分されてしまう。

思い切ってお願いしてみたところ、黄金湯のオーナーが、不要になった古材を分けてくださいました。

玄関には「2008年1月 装い新たに誕生します」という貼り紙が出ていました。工事の看板には「(仮称)黄金湯旅館改築工事」とあります。

この旅館は、現在の「湯元 小金湯」として建て替えられました。

工事看板には「(仮称)黄金湯旅館改築工事」とありました

石は、全部ひとりで運んだ

いただいた古材は、自宅の外構に使うことにしました。ちょうど家を建てるタイミングだったのです。

そして、ここははっきり書いておきたいところです。黄金湯の石は、運ぶのも敷き詰めるのも、全部ひとりでやりました。

軟石は、決して軽い石ではありません。運び方は、完全に力技でした。

自家用車に数本ずつ積んで、自宅と黄金湯を何度も往復しました。革手袋をはめて、抱えて、積んで、下ろして、また戻る。重機も台車もありません。

あの頃は、こんなに力仕事ができていた

ひとつ、書いておきたいことがあります。

これは私が椎間板ヘルニアを発症する前の話です。

いま思い返すと、しみじみします。あの頃の私は、こんなにも力仕事ができていたんだなと。同じことを今やれと言われても、できません。

この石を運べる体だったから、いまこのアプローチがあります。(椎間板ヘルニアで入院したあとの話は、こちらに書いています

ピンコロは、まったく別の話です

ここが少しややこしいので、分けて書きます。

アプローチ中央にあるピンコロの石畳は、黄金湯とは何の関係もありません。自宅を新築するときに、建築士さんを通して業者に発注したものです。

ピンコロ材の搬入は業者さんにお願いしましたが、敷き詰める作業は、建築士さんが好意で一緒にやってくれました。砂を均して、一つずつ並べて、高さを見て。

ピンコロを敷いているところ。こちらは黄金湯とは別の話です

かかったのは1日、たぶん2日。もう18年前の話なので、そのあたりは曖昧です。

その建築士さんは、自宅を設計してくれた方。もう20年来のお付き合いになります。中央に敷いた平たい床材も、その方が他の現場で残った軟石を譲ってくれたものです。

この敷石は、4つの出どころでできている

  1. 細長い縁石——黄金湯の土台だった古材。オーナーからいただいたもの
  2. 中央の平板——建築士さんが、他の現場で残った軟石を譲ってくれたもの
  3. ピンコロ——自宅新築のときに発注したもの
  4. そのほか——いつも分けていただいている採石場の石

つまり、このアプローチで買った石はピンコロだけ。あとは全部、いただきものと余りものです。

18年経って、分かったこと

石を敷いて暮らしてみて、正直なところを書いておきます。

雑草の管理は、こまめにやる必要があります。石と石のあいだから、放っておくとどんどん出てきます。ここだけは手がかかる。

逆に、心配していたことは起きませんでした。

意外なほど、沈んだり傾いたりしません。18年です。北海道の冬を18回越えて、凍結による持ち上がりも、まったく気になりません。

そして、アイビー。これは妻が好きで、意図的に植えているものです。軟石とアイビーの組み合わせが、私はとても気に入っています。グレーの石に緑が這っていく感じが、年々よくなっていきます。

18年後のいま。アイビーが石のあいだを這っています

そして数年後、残りの石は神木の根元へ

ここからが、この話のいちばん好きなところです。

私が分けていただいたのは、ほんの一部でした。残った古材は、それから数年後、思いがけない場所に敷かれることになります。

小金湯には、推定樹齢750年のカツラの巨木があります。樹高は約23m、幹周りは10m以上。「小金湯桂不動」と呼ばれ、昭和47年に北海道の「記念保護樹林」に指定されています。

根元には不動尊が祀られ、数十体の地蔵尊が木を取り囲んで立っています。しめ縄が張られ、賽銭箱が置かれた、拝む場所です。

小金湯桂不動。推定樹齢750年。根元に不動尊と、数十体の地蔵尊が並びます

この木は、根が荒々しく地表に露出しています。

その根を守る土台として、黄金湯の古材が敷き詰められたのです。

桂の木が立つ盛り土を受けている石積み。よく見ると、あの叩き模様が並んでいます

その姿は、圧巻です。私は何度も見に行っていますし、そのたびに手を合わせています。

そして——1883年に湯が湧いているのが見つかったのは、まさにこのカツラの木の下でした。

木の下から湧いた湯で湯治場が生まれ、その建物を軟石が支え、百数十年後、その石が木の根を守る側にまわった。石が、始まりの場所に還っていったことになります。

ちなみにこの木には、もうひとつ言い伝えがあります。定山渓温泉を開いた美泉定山が根元で仮眠したとき、樹霊が夢枕に現れて霊泉が湧くことを告げたというものです。

まとめ:踏むたびに、思う

順番を整理すると、こうなります。

  1. 明治のいつか——名もなき石工が、この石を叩いて仕上げる
  2. 湯治場の土台として、百年以上、建物を支える
  3. 2007年——解体。瓦礫の上に転がる
  4. 私が譲り受け、建築士さんと2人で我が家に敷く
  5. 数年後——残った石が、樹齢750年の神木の根を守る土台になる

つまりあの石にとって、最初の第二の人生は、神木の根元ではなく、我が家のアプローチだったということです。先に俗、あとから聖。

片方は不動尊と地蔵尊に囲まれて拝まれ、片方は毎日私に踏まれている。

でも、どちらも同じ石です。同じ職人が叩いた、同じ模様の。

特別なことをしているつもりはありません。ただ、石が好きで、通い詰めて、分けていただいて、敷いた。それだけです。

それでも、玄関を出るたびに少しだけ思います。この石は、百年以上前の湯治場を支えていたんだよな、と。

訪ねてみたい方へ

小金湯温泉は、札幌市南区。定山渓へ向かう国道230号沿いにあります。

湯元 小金湯

この記事に出てくる、建て替えられた旅館です。2008年から、この姿になりました。

現在の湯元 小金湯。奥に見えるのが桂の木です

そして敷地の目の前に、小金湯桂不動が鎮座しています。この宿のシンボルツリーです。石積みも、ここで見ることができます。

宿の入口(左)と、桂の木の盛り土を受ける石積み(右)。道をはさんで、すぐ向かい合っています

小金湯桂不動

推定樹齢750年のカツラ。根元には不動尊が祀られ、数十体の地蔵尊が木を囲んで並んでいます。

木を囲むように並ぶ地蔵尊
少し引いて見たところ。手前の石積みも、道の縁も軟石です。盛り土ごと、この石が支えています

旬の御宿 まつの湯

私が当時よく通っていた、隣の宿です。日帰り入浴もできます。

旬の御宿 まつの湯。看板と玄関

そして——ここの看板が、私はとても好きなのです。

コンクリートの壁に焼き物を貼り付けて、「まつの湯」の文字にしてあります。ひとつずつ形も色も違う陶片が並んでいて、手仕事の温かみがある。最高に素敵だと思います。

焼き物を貼り付けた看板。陶片がひとつずつ違います

建物のまわりも気持ちのいい宿です。焼杉の黒い壁に、花の鉢がずらりと並んでいます。

焼杉の壁と、並んだ花
玄関まわり。ベンチがあって、のんびりできます

石に一目惚れして通い詰めていた頃、この宿にも本当にお世話になりました。

※日帰り入浴の時間・料金は変わることがあります。おでかけ前に各施設の公式サイトでご確認ください。

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